大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)680号 判決

控訴人は原判決を取消す、左記(イ)の昭和二十二年四月四日以後一年間の各約定保険料金百二十四円二十五銭を超過する金二十三円二十五銭四口合計金九十三円の保険料債務及び(ロ)の昭和二十二年五月三十日以後一年間の約定保険料金三百二円を超過する金八十一円の保険料債務はいずれも存在しないことを確認する。

(イ)尋常終身生命保険、契約者兼被保険者控訴人、保険者明治生命保険株式会社、契約時昭和九年四月四日、保険金額各二千五百円、保険料支払期日毎年四月四日、保険証券番号第七四四三三号ないし第七四四三六号

(ロ)契約の種類、各当事者及び被保険者右に同じ、契約時大正十一年五月三十日保険金額一万円、保険料支払期日毎年五月三十日保険証券番号第四〇〇六号

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

事実並に証拠の関係は、控訴人に於て末尾添附の第一及び第二準備書面記載のとおりに陳述した外はすべて原判決の事実に記載してあるとおりであるからこれを引用する。

三、理  由

当裁判所は控訴人の本訴請求を理由がないものと認める。そしてその理由は以下に訂正附加する外原判決の理由に於て判示するところとすべて同一見解であるからこれを引用する。

即ち原判決の(ニ)(イ)中記録第三百五十六丁裏二行目「司法権の立法権に対する優位を認めるに足る規定もなく云々以下同五行目承認されていたと見るべきであるから」との部分を削る。

(一)  控訴人は、本件大蔵大臣の命令は保険会社に対するものであつて保険契約者に対するものではないから契約者に対しては効力を生じない、又本件処分の公告(乙第二号証)は契約者に対する大蔵大臣の意思表示としての効力を生じないしその公告は保険料の増額を具体的に表示していないからこの点から見ても本件処分は効力を生じないと主張するが、保険業法第十条第三項の命令は既存の保険契約上の法律関係に変更を加える形成的の効果を生ずるものであることは、同規定により明白であると解せられる。従て、本件命令は保険会社に対してなされたものであつても既存契約に対し新に認可したものと同一の効力を及ぼさしめ、保険会社をして新な契約と同一の保険料を請求し得る力を設定したものと解すべく、右行政処分は保険会社に告知されたことによつて行政処分たるの効力を完全に生ずるものであるが、契約内容を変更するものである以上多数の契約者に知らしめる必要上同条第四項に於て保険会社にこれを公告せしめることを規定したこと明白である。又成立に争のない乙第二号証の公告にはその変更の内容は具体的に明確にされたものと認められる。

よつて右見解と異なる控訴人の主張は採用しない。

(二)  控訴人は維持費の大部分は保険料につき保険会社の負担する払込期日の通知及び振替貯金払込に要する費用であるが、保険料は持参債務だからその取立に要する費用は法律上は負担の必要のないものである。従てさような経費が値上りしたからとて維持費を増額する必要がないと主張するが、維持費は保険者がその事務遂行に関する全部の費用を含み、(イ)保険料集金費(集金に関する給与、通信費)その他(ロ)死亡調査費、(ハ)投資調査、財産の公課、(ニ)所得税その他一般公課、人件費、消耗品費、(ホ)土地建物の維持その公課等所謂土地建物の経費等幾多の費用を包含するものであることは実験則上常識により予想し得る明白な事柄であり、従て振込期日の通知及び振替貯金払込に要する費用がその大部分を占めるものではなく却てその一少部分に過ぎないことも明白であると考えられる。尚我国保険業者の慣行として契約者が来つて支払をなすを待たず人を派し契約者について、保険料を徴集する実状にあることは実験則上明白であるから、保険料の支払については当事者間に於て取立債務とする暗黙の合意が成立しているものと認めるのを相当とすべきを以て、右費用を本件命令に際し考慮に入れたのは寧ろ相当であると認められる。のみならずこの点の認定に誤差があつたとしても右は行政処分取消の理由となるに留まり行政処分が当然無効となるものではない(この点原判決の理由(三)参照)。よつてこの点を理由として本件命令が当然無効であるとする控訴人の主張は理由がない。その他控訴人の主張は当裁判所と異なれる法律上の見解に立脚するもので採用し難いものであることは原判決の理由に判示するところによつて明白である。

されば控訴人の請求を排斥した原判決は相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第一項、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)

(第一、準備書面)

請求の原因としては原判決の事実摘示中第一の(一)(ハ)二行目「取立とし」とあるを「取立債務とし」と改め更に、

(A) 既存契約の保険料を増額する本件処分が有効であるならば、それは増額された保険料を現実に年々発生せしめて其の支払を命ずる法則として存続することになり新憲法にも反するから同法前文第一項末尾と第九十八条第一項に依り無効とせらるべきである。

(B) 被控訴人は保険料の増額を必要とする理由として契約維持費の著増を主張するのであるが控訴人は右維持費の大部分を占めるものは保険料に付保険会社の負担する払込期日の通知及び振替貯金払込に要する費用等であるが、それは法律上必要のものでないことを主張し、其の根拠としては普通保険約款の規定上、将た民法第四八四条の規定上保険料債務が持参債務であつて取立債務でないことを主張する。而して実際問題としては保険会社が保険契約者に対し事情を詳述し将来に向つて保険料増額の承諾を求めると同時に承諾者に対しては従前通りの方法に依る払込を求め不承諾者に対しては、厳格なる持参払を求めたならば契約者は持参払の不便を厭い本件程度の増加率ならば殆んど例外なく承諾したであろうから保険料を一方的に増額する必要はなかつたものと認むべきである。

(第二、準備書面)

(一) 大蔵大臣の本件処分は保険会社に対する意思表示であり、保険会社に対する処分であつて、保険契約者に対する意思表示でなく、保険契約者に対する処分でないことは業法第一条、第十条の規定上明白である。故に此の点から観ても右処分は保険契約者に対して保険料増額の効力を生じない。被控訴人は乙第二号証の如き公告の為されたことを主張するけれども其の公告は各保険契約者に対して大蔵大臣の意思表示たる効力を生じたものではない。仮に之を生じたものとしても其の公告には各保険契約者殊に本件の如き尋常終身生命保険契約者に其の保険料の増額を具体的に表示したものでないから、此の点から観ても其の増額の効力を生じたものと云うことは出来ない。

(二) 憲法の解釈については昭和二十五年二月一日最高裁判所大法廷言渡の「下級裁判所も法令の違憲審査権を有する。憲法第九八条は憲法施行の前後にかかわらず制定せられた法律等の有効であるか否かを決定する基準を示す規定である」とした判決(判例集四巻二号、刑事七三頁以下)を援用する。

(三) 被控訴人の主張に依るも旧契約の保険金は平均二千二百二十四円で保険金千円に対し維持費五円を八円に値上したと云うのであるから、一件平均維持費十五円を二十四円に増額して九円だけ値上したことになる。然るに郵便料金及び振替貯金通常払込料金は別表<省略>の通りであるから現在の料金に依れば右値上の金額九円は持参債務たる保険料の支払期毎に為す払込請求及び振替貯金通常払込料金加入者負担の慣行取止に因りて不用となる右請求の郵便料金、右加入者負担の料金、用紙代及び当該人件費等で十分に之を賄い得て余りあるのみでなく、昭和二十一年十二月一日本件処分当時に於ても右両種の料金だけで金六十銭の節約は出来、それに絶えず暴騰しつつあつた用紙代、当該人件費等を加えれば其れ等の費用が決して被控訴人主張の如く維持費用中の微少部分でないことが判る。而して本件処分当時インフレーシヨンは急速に進行しつつあつたので当局者は郵便料金や振替貯金払込料金等も続々値上となるべき事を予想していたものと認むべきであるから若し保険料債務が法律上持参債務であつて如上の費用は保険会社にとり法律上必要の費用でないことに思を致したならば旧契約につき保険料値上強行の必要を感ずることはなかつたであろうと思わざるを得ないのである。

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